第39章 欲しいもの
綺麗に真っ2つに切り離された船の片側では、姿もやはりブタのような天竜人がゴロゴロと転がっていく。
(アイツは…。)
知った顔だ。
確か、2年前に人間オークション会場で、ルフィが殴り飛ばした天竜人。
またアイツなのか…。
あの時の1発で少しは懲りたかと思ったが、やはりそう簡単に人は変わらない。
クズはいつまでたってもクズのまま。
(いっそ、この場で息の根を止めてやろうか…。)
例えば、心臓を抜き取って、深海に沈めてみるのはどうだろう。
最上の血族と信じ込んでやまない彼らの心臓が、海獣に喰われる様など、最高におもしろそうだ。
クイッとチャルロスの方へ腕を伸ばす。
ほら、あんなヤツ、すぐにでも心臓が盗れる。
「きゃーー!」
「……!」
恐怖に怯える悲鳴が聞こえ、その瞬間、チャルロスのことなど頭の中から吹っ飛んだ。
見れば、もう片側の船から海へ転がり落ちたモモの姿が…。
オイ、嘘だろ。
船を両断したとはいえ、まだそんなに時間が経っていない船の斜面は、傾いてはいるけど、踏ん張れる程度だ。
それなのに早々に海れ転げ落ちたモモの身体能力の残念さに、知らずと笑みが零れてしまう。
ああ、やっぱりコイツには、俺がついててやらないと。
次からは、船に置いていったりしない。
どんな事情があるにせよ、コハクをエサにしてでも連れ出してやる。
じゃなきゃもう、心配で外を歩けそうにもない。
この俺が、女のことで気が気じゃないなんて、嘘だろ?
俺をこんな情けねェ男にしやがって…。
オイ、責任とれよ、バカ女。
一生かかっても責任をとらせてやる。
だから、絶対に船からは降ろしてやらない。
“シャンブルズ”
自分の能力を、今日ほど便利だと思ったことはなかった。
だってほら、一瞬で彼女を腕の中に抱きしめられる。
飛び込んできたモモの身体をしっかりと抱きしめ、潮風に乱れた髪に鼻を寄せて、カモミールの香りを大きく吸い込んだ。
この香り、確か鎮静作用があるんだったか?
なるほど、嘘じゃねェ。
…すげェ安心する。