第39章 欲しいもの
彼女の心の中に、自分ではない“誰か”が住んでいるということは、ずいぶん前からわかっていた。
それでもローは、その男を一途に愛し続けるモモの心に、少しでも入り込みたかった。
欲しいものは、モモの心。
会ったことすらない“誰か”にライバル心を燃やし、強引にでも彼女を手に入れようとして、間違ったこともたくさんしてしまった。
求めているのは、幸せそうに笑うモモのはずなのに、思うように笑わせられなくて、どんどん傷つけていく。
もし、彼女が愛する“誰か”だったら、そんなことはないんだろう。
そう思ったら、余計に悔しくて、優しくしたいのに、優しくできなくなった。
こんな感情、自分は知らない。
…いいや、本当はわかってる。
ただ、気がつかないフリをしてただけ。
ああ、そうだな。
俺は…--。
『ふがーーッ!』
船内から、耳障りな喚き声が聞こえた。
ブタの鳴き声かと聞き間違えそうになったその声に、ローは我に返る。
惚けている場合ではない。
こんなことをしているうちに、汚いブタの鼻息がモモに触れでもしたらどうする。
“ROOM”
意識を集中させ、船全体をサークルで包んだ。
“スキャン”
能力で船内をくまなく確認すると、ローが今立っている天井のすぐ下に、モモがいることがわかった。
そしてその傍には天竜人と思わしき人間と、その付き人たち。
天竜人は今にもモモに腕を振り下ろしそうだ。
(この…、クソブタ野郎…ッ)
コイツ、誰のものを傷つけようとしているのか、わかっているのか。
(…俺のものだ。)
彼女の心に、誰が住んでいようと関係ない。
モモがハートの海賊団の一員である以上、誰がなんと言おうと、彼女は自分のものなんだ。
横暴だろうが、強引だろうが、なんとでも言え。
俺がそう決めた。
だから、彼女を傷つけるものは、誰であっても許さない…!
“アンピュテート”
大太刀を一閃させると、巨大な船はまるでオモチャのようにパックリと2つに両断された。