第39章 欲しいもの
「そうやって暴力で押さえつけて手に入れたものなんて、全部偽物なんだってことに、どうして気がつけないの!?」
チャルロスの13人いる妻は、きっと誰も彼を愛していない。
そんな彼女たちに例え子供ができたとしても、なにも幸せじゃないだろう。
望まれて生まれてこれない子供たちが可哀想だ。
そしてそんな子供たちはみんな、チャルロスのような天竜人になってしまうのだろうか。
だとしたら、悪いのはチャルロスだけではないのかもしれない。
天竜人を崇める世界が悪い。
もっと狭めて言えば、政府が悪い。
ふいに、自分が昔 捕らえられ、海兵に言われた未来を思い出した。
『なぁ…、この女が本部に連れて行かれたら、どうなるか知ってるか?』
『繁殖させるんだよ。』
人を人とも思わないのは、政府だって同じ。
彼らが変わらない限り、天竜人も、歪んだ世界も変わることなんてないんだ。
「あなたもわたしも、同じ人間よ。なのになぜ、そんな考え方しかできないの。」
「ばぁーか! われら天竜人とおばえのような下々民が同じわけないえ!」
天竜人と人間は、天と地ほど違うとチャルロスは力説する。
いくら高貴な血筋だからといって、天竜人は空を飛べるわけでも、竜に変身できるわけでもない。
ただの人間なのに…。
だけどそう言ったところで、彼らが納得するわけもない。
生まれながらに「自分たちは特別だ」と信じているのだから。
チャルロスに、世界はもっと美しいのだと気づいて欲しかったけど、彼の考えを変えさせる力はモモにはなかった。
「女~、今ここでわちしを愛すと誓えば、シツケは1日で勘弁してやるえ…。」
誓えなければ、何日にも渡る地獄の日々が待っている…言外にそう告げられた。
ここは嘘でも「愛してる」と告げた方が利口なのだろう。
でも、そんな自分を汚す嘘は絶対吐きたくない。
「冗談じゃないわ…ッ! わたしが愛する人は、生涯ただひとりだけよ!」
無愛想で心配性。
冷たく見えるけど、本当はすごく優しい。
そんな彼しか、もう愛せない。
「ふがーー!」
モモの答えで怒りが頂点に達したチャルロスは、渾身の力で鞭を振り下ろす。
痛みを覚悟し、ギュッと強く目を閉じた。
その時だった…。
“ROOM”