第39章 欲しいもの
「むふーん、わちしの妻はどうしているかえ?」
部屋に入ってきたチャルロスに、付き人のひとりが「あちらです」とモモを指差す。
その言葉にカッとする。
「ふざけないで、あなたの妻になった覚えはないわ!」
すでにモモを妻にしたつもりでいるチャルロスに、怒りの声を上げる。
「んーん? おかしいえ、あんなにシツケをしたのに、まだ言うことをきかないえ。」
シツケ…。
それはあの暴力のことか。
モモの唇は傷つき、未だに鉄の味がするし、殴られた腹はズキズキと痛み、おそらく痣になっているだろう。
「もっとシツケた方がいいかえ~?」
チャルロスが手を差し出すと、付き人は彼の手に鞭を握らせる。
この男、狂ってる…。
こうして嫌がる女性に鞭打ち、無理やり従順にさせているのだろう。
彼には他に13人の妻がいると言った。
その全ての女性たちが可哀想でならない。
モモは例えどんなに痛めつけられても、絶対に屈するものかという決意を込めてチャルロスを睨み上げた。
鞭をかざしてもなお、そんな反抗的な態度をされたのは初めてだったのだろう。
チャルロスは、わからないといったふうに首を傾げる。
「おばえ、いったいなにが不満だえ? このわちしの妻になれるというのに。他の女はみんな泣いて喜ぶぞえ。」
それは喜びの涙ではなく、悲しみや怒りの涙だろう。
この男はそんなこともわからないのか。
「…そうか、わかったえ。」
モモの心の問いかけが聞こえたのか、チャルロスは納得がいったようにポンと手を打つ。
「おばえ、自分が14番目の妻だから不満だえ!」
「…なんですって?」
1ミリもわかっていないチャルロスに、怒りを通り越して呆れた。
「むふーん、おばえはわちしのことがそんなに好きか。」
それならば仕方ないと頷かれ、あり得ない勘違いにモモの頬が怒りで赤く染まる。
それを良い方へとったチャルロスは、さらに調子にのり始めた。