第39章 欲しいもの
モモが連れてこられた港には、いかにも金持ちが乗りそうな巨大な船が停泊していた。
これでも全力で抵抗したつもりだが、付き人の男たちの前ではそんなものは時間稼ぎにもならず、あっという間に船に乗せられてしまう。
船の中は外装と同じように、ため息が出るほど豪華絢爛。
しかし、そんな船の美しさに目をくれる余裕などない。
押し込められてしまった部屋からどうやって逃げ出そうか…。
そればかりを考える。
部屋にはチャルロスの護衛や付き人が何人も控えており、とても逃げ出せる隙などない。
それでも、モモは1秒でも早く、この船から逃げ出したかった。
(ジャンバール…!)
連れ去られるときに見た、血だまりを作る彼の姿が目に焼き付いて離れない。
今ごろ彼は、どうしてる?
天竜人がいなくなったあとなら、誰か助けてくれただろうか…。
癒やしの歌を唄えば、あんな傷はたちまち治るのに、それができなかった自分と、ジャンバールを撃った彼らにものすごく腹が立つ。
ふと、自分を妻にするとか言った、ブサイク面の天竜人を思い出した。
モモの人生の中で、あんなに最低な人間は見たことがない。
自分が世界の中心で、天竜人以外の人間はモノのように思っていて。
この部屋には彼を守るために多くの人たちがいるけど、あの男にそんな価値があるとは思えなかった。
もちろん、彼らも雇われているのだろうけど、モモはいくら金を積まれたって、あんな男に頭を下げるのは死んでもごめんだ。
ガチャリ…。
その時、モモの心の罵倒に反応してか、ブサイク面の天竜人、チャルロスが部屋に入ってきた。
二度と顔など見たくなかったのに…。
盛大に顔をしかめるモモとは反対に、チャルロスはご機嫌な様子でこちらに近づいてくる。