第39章 欲しいもの
しばらく2人の間に沈黙が落ちた。
そうだよな。
自分とローは、まだ会って間もないし、いきなり信用しろって言う方が難しい話だよな。
そんなの当たり前のことなのに、それでも信じてもらえないことに落ち込み、ついローの目から視線を外してしまう。
(母さん、ごめん…。)
自分がもっとローに信用されていれば、彼は素直に自分にジャンバールを任せて、モモを助けに行けただろうに。
己の不甲斐なさが悔しくてたまらない。
しかし、そんなコハクの頭に、ふわりと大きな手のひらが落ちてきた。
「え…。」
暖かな感触に、弾かれるように顔を上げれば、ずっとこちらを見つめ続けていたローと再び目が合った。
「コハク、ジャンバールを頼めるか?」
「……!!」
ローの言葉に、耳を疑う。
つまりそれって、自分を信じてくれるという意味だろうか。
「お前がジャンバールを看るというなら、俺は必ずモモを取り返す。」
心が熱くなった。
ローが、自分を信じると言ってくれてる!
「ああ、ああ…! 絶対ジャンバールは死なせねーよッ。だからロー、母さんを頼む!」
ひとりで患者を看るのは初めてだ。
不安がないといえば、嘘になる。
でも、今ならなんでもできそうな気がする。
ローの信頼が、コハクに自信という力をくれた。
「船長、大丈夫ッス! コハクは俺たちでフォローするから、安心してモモを助けに行ってくれよ!」
「アイアイ! おい、ジャンバール。このくらいの傷で死んだりしたら、先輩のおれが許さないからな!」
仲間の言葉が、ローとコハク、それぞれの背中を押してくれる。
「安心しろ…、俺は…このくらいじゃ死なん! 船長、モモを頼む!」
こうまで言われて仲間を信じられなかったら、男が廃る。
「…わかった。死んだら承知しねェぞ。」
ついに立ち上がったローは、そう言い捨ててから風のように走り出した。
心配事はなにひとつ解決してないのに、足取りはやけに軽やかだ。
待ってろ、今助けてやる…!
今も助けを待っているであろうモモのもとへ駆ける。