第39章 欲しいもの
全員が黙り込んだのを見て、ローは心を落ち着かせ、ジャンバールの手当てを始めようとする。
しかし、その腕を誰かが掴んだ。
ガシ…ッ。
「……。」
まあ、そうだよな。
納得できるわけないよな。
腕を掴んだのは、コハクだった。
「……なんだ。」
彼の言いたいことは痛いほどわかっているのに、そうやって聞いてあげることしかできない。
モモを助けてくれ。
見捨てるのか。
そう言いたいのだろう。
こんな事態になったのは、船長である自分の責任だ。
だから、どんな恨み言も受け入れるつもりでいる。
「ロー…。オレに…--」
けれど、コハクが言った言葉は、ローが想像していたどんなものとも違っていた。
「オレに、ジャンバールを託してくれよ!」
それは、恨み言でも責めの言葉でもなく、任せて欲しいという協力の言葉。
「なんだと…?」
意味がわからなくて、思わずコハクを見下ろした。
こちらを見上げるコハクと目が合うと、彼の瞳には燃え上がる火が灯っているのがわかる。
「ロー、オレはガキだけど、医者になりたいって夢をただ見てるだけの子供じゃない。」
街の子供が夢見るように「いつかお医者さんになりたいなぁ…」みたいな、甘い気持ちと一緒にしないで欲しい。
叶わないとは知りながらも、それでも諦めきれず、母や本から貪欲に知識をむさぼりながら、意地汚く夢見てきた。
それが自分だ。
「独学でできる勉強は全部した。母さんから、薬のことも教えてもらった。さすがにジャンバールを治すことはできないけど、ローがいない間、命を取り留めておくことはできる!」
コハクはただの子供じゃない。
世界一の薬剤師であるモモの息子だ。
その誇りにかけて、絶対にできると約束しよう。
「……。」
ジッとこちらを見つめるローがなにを考えているのかはわからない。
もしかしたら、ガキが生意気なことを言って…と思われているかも。
でも、でも…!
「ロー、オレはお前の弟子なんだろ!? 師匠なら、少しは弟子のことを信じろよ!」
コハクがさっき、ローを誰より頼りがいがあると感じたように、ローにも自分のことをそんなふうに思ってもらいたい。
それともこんな自分じゃ、無理なのだろうか…。