第39章 欲しいもの
「せ…船長…ッ。」
血にまみれた大きな手が、ローの腕に縋りつく。
「どうした、なにがあった。」
本当はしゃべらせない方がいいが、黙れと言ったところで彼は黙らないだろう。
なぜなら、この場にモモの姿がない。
ジャンバールは、ローがモモと2人で船番をさせた意味をよく理解していた。
自分の不在中は、お前がモモ守れ…。
口に出さなくても、彼はちゃんとわかっていたのだ。
そんな彼が、モモを船に残して街へ出てくるはずがない。
だとしたら、彼女の行方は…。
「すまん…ッ、すまねぇ…! モモが…天竜人に、連れ去られちまった…!」
ゼェゼェと血泡を吹きながらも事実を伝えたジャンバールに、ローは心が絞られるような痛みを感じた。
「ジャンバール…!」
ちょうどその時、コハクとベポ、シャチ、ペンギンがローに追いつき、状況に驚きの声を上げた。
「おいおい、ジャンバール! どうしたんだよ!」
慌てふためくベポたちをよそに、ローは素早く傷の具合を確かめた。
幸いどの傷も急所を外れているが、撃たれた箇所が多く、血を流しすぎている。
早く止血をしてやらなければ、命に関わるだろう。
「ここでオペをする。お前ら、手伝え。」
船に戻る時間も惜しく、ここで処置をすることに決めた。
しかし、そのことに異を唱えたのは、他の誰でもない、ジャンバール自身。
「そんなの…ッ、あとでいい…! 早くモモを追ってくれ!」
時は一刻を争うのだ。
こんなところで自分にかまけていては、手遅れになる。
「え…? おい、モモがどうしたんだよ!」
コハクを含め、あとから来た仲間たちは状況がわからず、オロオロとするばかり。
モモ…ッ。
ローだって今すぐ彼女を助けに行きたい。
けれど…。
「お前のオペが先だ…。」
ジャンバールのケガは一刻を争う。
彼を放ってモモを追いかけることなど、とてもできなかった。
ちくしょう…!
こんなことなら、嫌がる彼女を引きずってでも、一緒に連れてくるべきだった。
傍にいれば、例え相手が天竜人であっても、絶対に守ってみせたのに。
後悔の波だけが、絶えずローの胸に押し寄せた。