第39章 欲しいもの
そんなはずない。
彼女は今頃、船で大人しく留守番をしているはずだ。
「……ッ!」
騒ぎの中心に向かうにつれ、ローの胸を占める不安は大きくなっていった。
ぶつかりそうになる人混みを、器用に避けて走った。
いつから自分は走り出しているのか。
答は簡単。
コハクにとある真実を聞いてからだ。
コハクが話してくれたことは、ローを、仲間を驚かせた。
しかし、言われてみれば納得できることがいくつもあって…。
モモは海軍や政府に狙われている。
たどり着いた答えを認識した途端、いてもたってもいられなくなった。
出かける前、ローがモモに、なぜ一緒に来ないのかと尋ねたとき、彼女は「わたしの都合よ」と答えた。
どうしてあの時、教えてくれなかったんだ。
お前にとって俺は、そんなに頼りねェ男かよ。
モモに信用してもらえなかったことが、悔しくて堪らない。
ちくしょう、ぜってェ文句言ってやるから、覚悟しとけよ…!
もはやローは、騒ぎの真ん中にモモがいることを信じて疑わなかった。
コハクや他の仲間を振り切って走り出したローは、みんなより一足先に現場へとたどり着いてしまう。
ついさっきまで諍いがあったと思わしきその場所には、今も生々しく騒ぎの爪痕が残されている。
その最たる証は、地面に血だまりを作り、無惨にも倒れた男の姿。
変わり果てた彼の姿に、嫌ってほど見覚えがある。
オイ、嘘だろ…。
「……ジャンバール!」
“ROOM”
ひと目見ただけで、彼の身体を無数の銃弾が貫いたのがわかり、すぐにサークルを張った。
“スキャン”
ジャンバールの体内をくまなく調べると、撃ち込まれた鉛玉がいくつも取り残されており、能力を駆使してすぐにそれを取り除いてやる。
「ぐ…ッ、船長…!」
バラバラとローの手の中に取り除かれた銃弾が転がる中、ジャンバールが取り戻せるはずのない意識を浮上させ、ガシリと腕を掴んだ。