第39章 欲しいもの
「うおぉぉー!」
激しい雄叫びを上げ、突進してくるジャンバールに向けて銃口が光った。
「待って、止めて…!」
大人しくついて行くから!
だから彼を撃たないで…!
縋るように叫ぶけど、天下の世界貴族の護衛たちは、たかだか下々民の女の声になど耳を傾けない。
「撃てー!!」
ダァン、ダン、ダダーン!!
号令と共に無数の銃弾がジャンバールを貫く。
「ぐ…ぉ…。」
衝撃に気を失い、白眼を剥いた彼の身体が、ゆっくりと傾いだ。
ドサリ…。
砂埃を上げて倒れる彼の姿に、涙が溢れた。
「ジャンバール! ジャンバール!!」
すぐに彼のもとへ駆け寄りたいのに、数人の付き人に肩を掴まれ、阻まれる。
「来い! お前はこっちだ! チャルロス聖様が妻にお望みになったのだから、聖地に連れて行ってやる。」
「ふざけないで! 嫌よ、離して…!」
全力で抵抗するが、男数人に適うはずもなく、ズルズルと引きずられていく。
地面に倒れ伏したジャンバールは、みるみるうちに血だまりを作っているのに、モモは薬を使うことも、歌を唄うこともできない。
「誰か、誰か! ジャンバールを助けて…!」
心から叫ぶけど、膝をついて頭を下げたままの住民たちは、誰ひとりとして動いてはくれなかった。
嘘でしょ、みんな。
すぐそこに死んでしまいそうな人がいるのに、見殺しにするの…?
モモは知らない。
ここで誰かが動けば、機嫌を損ねたチャルロスが再び銃を発砲するということを。
この街の人々は、なにがあっても動かないことで、自らの命を守ってる。
それほど、天竜人の横暴は許されているのだ。
「ジャンバール、ジャンバール…!」
モモの叫びは誰にも届かないまま、いつ死んでしまうともしれないジャンバールを残し、チャルロスたちに連れ去られてしまった。