第39章 欲しいもの
「…離して! あなたの妻になるつもりはないわ!」
相手が天竜人だろうと、嫌なものは嫌だ。
怯むことなく睨み上げる。
「ん~? おばえ、わちしの妻になることの光栄さがわからんのかえ?」
これだから下々民は…、とため息を吐かれる。
スルリと顎から手を離される。
良かった、諦めてくれたのか…。
そう思ってホッとした瞬間、衝撃が頬を打った。
バチン…!
身体が吹っ飛び、地面を転がる。
「モモ!」
ジャンバールの叫び声が聞こえ、モモはぼんやりと「ああ、殴られたのか」と認識した。
口の中が切れ、鉄の味がする。
ジャンバールを心配させてはいけない。
すぐに立ち上がろうとするけど、フラついてうまく立ち上がれない。
するとガシリと腕を掴まれ、強引に立ち上がらされる。
「生意気な妻にはシツケが必要だえ。安心するえ、わちしはシツケがとても上手い。」
「シツケ…?」
これが躾だと言うのか。
こんなのはただの暴力だ。
「チャルロス聖様、顔を殴られますと、せっかくの美貌が損なわれますよ。」
「んん~、それはイカンえ。次からは胴体を殴るようにするぞえ。」
こんなふうに…と言わんばかりに、モモの腹に拳がめり込む。
「ぐ…ぅ…ッ」
咄嗟に腹筋に力を入れて防御したとはいえ、激しい衝撃に吐き気が込み上げる。
ブチリ、となにかが切れる音がした。
それは、後ろでうずくまるジャンバールの怒りが最高潮に達した音。
「おのれッ、貴様らァ!!」
怒りに我を失ったジャンバールは、撃たれた腹から血が吹き出るのも構わず、チャルロスに襲いかかる。
「ゴホ…。待って、ジャンバール…!」
この男がどんなに最低な人間でも、手を出してはいけないのでしょう?
だからあなたも今まで耐えてくれたのに…!
自分のために危険を冒す彼をとめるけど、ジャンバールは止まることがない。
「チャルロス聖様をお守りしろ!」
護衛の付き人たちが一斉に銃を構え、ジャンバールへと向ける。
その光景を見て、向けられた銃口の数にゾッとした。
いくらなんでも、こんなに多くの銃撃を受けては死んでしまう。
モモはジャンバールを止めようと、必死に声を張り上げた。