第39章 欲しいもの
散々ローを避けておいて、こんな時だけ助けてもらおうだなんて、都合が良すぎるよね。
そうわかっていても、心でローを呼ぶことを止められなかった。
いつ撃たれるともしれない銃弾に怯え、キツく目を閉じる。
「………。」
しかし、いつまで待っても銃弾の痛みはおろか、銃声すらも聞こえてこない。
「……?」
静かすぎる空気を不思議に思い、そっと目を開けた。
パチリと開けた視界に飛び込んできたのは、ものすごい至近距離でモモの顔を覗くチャルロスのブサイク面。
「--ッ!」
驚きすぎて声にならない悲鳴を上げ、数歩下がった。
残念ながらローが助けにきてくれるような、ドラマみたいな展開ではないが、奇跡的に銃口は下ろされている。
いったいどうしたことだろう…。
状況がわからなくて混乱するモモに、チャルロスはズイっと歩み寄ると、おもむろに顎を掴んで引き寄せた。
「…!」
いくら体脂肪たゆたゆのチャルロスであっても、一応は男。
力勝負では適わず、ズルリと身体を引っ張られ、無理やり上を向かされて彼の前に顔を晒す羽目になった。
「むふーん。おばえ、美しいえ~。」
「な…ッ!?」
外気と接するのが嫌なのか、シャボンで顔を覆っているとはいえ、荒い鼻息が膜越しに当たりそうで、モモは盛大に顔をしかめる。
「その瞳! 見たことがない色だえ!」
チャルロスはモモの金緑色の瞳をまじまじと見つめる。
強引に目が合い、ベタベタとした視線に吐き気がしそうだ。
「気に入った! おばえを妻にしてやるえ!」
「な、なにを…ッ」
この人、正気!?
たった今まで殺そうとしていた相手を妻にするだなんて。
「では、第14夫人として聖地にお迎えする手続きをとります。」
傍らに控えていた付き人のひとりが、テキパキと答えた。
第14夫人…!?
つまり、この男には今の段階で13人もの妻がいるのか!
例え第1夫人だって絶対嫌だけど、まるでオモチャを選ぶかのような妻選び。
そしてそんな犠牲者があと13人もいると考えると、おぞましさに震えが止まらない。
この男、人を、女を、なんだと思っている!