第39章 欲しいもの
「奴隷のくせに逃げ出すとは、生意気だえ~!」
カチャリと銃口が向けられる音がする。
(や、止めて…!)
全身がぶるぶると震える。
今すぐジャンバールのもとへ駆け出したい。
『決して顔を上げるな。例え、俺になにがあっても、絶対にだ!』
しかし、彼と交わした言葉が、モモの足を地面に縫い付ける。
「ん~…、待つえ。これは奴隷が1匹タダで手に入るチャンスだぞえ。この奴隷を持って帰れば、お父上様もわちしを褒めてくれるえ!」
(な…ッ!)
なんだその言い分は…!
1匹とか、タダとか、ジャンバールを完全に物扱いして!
勝手すぎる発言に怒りが募る。
「チャルロス聖様のご命令だ! さぁ、立て!」
おそらく大勢いるであろうチャルロスの付き人たちが、一斉に銃を向けた。
しかし、怒りが募っているのはモモだけではない。
「断る! 再び貴様らのようなゲス共の奴隷になるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
唸るようにジャンバールが叫んだ。
その罵倒に、チャルロスの額にビキリと青筋が浮かぶ。
「おばえ…、わちしに向かってそんなことを言うとは…ッ。ムカつくえ~!!」
ダァン!!
耳を突くような銃声が響き渡った。
「ぐお…ッ」
銃弾が当たったのか、苦しむジャンバールの声も…。
その声が耳に入ったとたん、モモはジャンバールとの約束も忘れ、弾かれるように顔を上げた。
「ジャンバール!!」
ごめんなさい、あなたはわたしを守ってくれようとしてるのに。
でも、このまま見て見ぬフリをして、彼を見殺しにすることなどできない。
腹部に銃弾を受け、血を流して膝をつくジャンバールのもとへモモは駆け寄った。
「…バカやろう! 来るなと言っただろう!」
ジャンバールから怒声が上がるけど、そんなの気にするなんて無理だ。
彼が自分を守りたいと思ってくれるように、わたしだってあなたを守りたい。
銃を構えるチャルロスとの間に割って入り、両手を広げてジャンバールを庇った。
「なんだ、おばえ! わちしの前で立ち上がるとはムカつくえ!」
今度は銃口がモモの方へ向く。
「や、止めろ…!」
ジャンバールが呻くけど、それで止まるわけもなく。
(ロー…!)
キラリと光る銃口を前に、震えながらローの名を呼んだ。