第39章 欲しいもの
「むふーん、ヒューマンショップはまだかえ? 早く新しい奴隷が欲しいえ~。」
ずいぶんとマヌケな男の声が降ってきた。
顔が上げられないから姿を確認できないけど、きっと彼が天竜人なのだろう。
堂々と奴隷が欲しいだなんて、ジャンバールが言ってたことは本当だったんだ。
天竜人は、人を人とも思わない。
だけど彼の行いを正すほどの力も勇気も、モモは持っていないのだ。
こうして膝をついて、彼らがいなくなるのをジッと待つしかなくて、悔しく思う。
ザッ、ザッ…。
早く通り過ぎればいい。
ザッ…。
そう願うモモの想いとは裏腹に、足音はモモのすぐ近くで止まった。
「あんれ~? おばえ、どこかで見たことがあるえ。」
一瞬、自分のことかと思ってドキリとする。
でも、海軍や政府の人間ならともかく、会ったこともない天竜人までが自分を知っているということはないだろう。
では、今の言葉は、誰に向けた言葉なのか…。
その答えを教えるように、天竜人は再び声を発する。
「思い出したえ~! おばえ、お父上様のお気に入りだった奴隷だえ!」
(え…?)
彼の父親というのだから、当然天竜人だろう。
「はい、チャルロス聖様。この男は2年前、ロズワード聖様のもとを逃げ出した奴隷でございます。」
「確か、お気に入りの船長コレクションのひとりでございました。」
チャルロス聖と呼ばれた天竜人の付き人たちが、次々に言った。
ちょっと待って。
2年前、元船長、奴隷だった…。
この条件に合う人物を、モモはひとりしか知らない。
「名前はキャプテン・ジャンバール。奴隷でありながら逃げ出した罪深き男でございます。」
ああ…。
当たって欲しくない予感が的中し、全身の血が冷たくなっていくのを感じていた。