第39章 欲しいもの
島の中心部に着くと、街は大いに賑わっていた。
あちらこちらで見たこともない施設やもので、ごった返している。
「ジャンバール! あ、あれ、なに?」
シャボンにペダルのついた器具が取り付けられた乗り物が、そこら中を走っている。
「あれはボンチャリだ。ほら、出発前にペンギンたちが話していただろう。あれがそうだ。」
「あれが!」
ふわふわと宙を走る乗り物は、みんなが言っていたように素晴らしく楽しそうだ。
「…1台レンタルするか?」
あんまりにもキラキラした目で見つめていたものだから、ジャンバールに気を遣わせてしまった。
「あッ、ううん! ただ珍しかっただけだから。」
いけない、遊びに来たのではないのだから。
「別にボンチャリくらい借りたっていいんだぞ。」
「本当にいいの。おもしろそうだけど、わたしが乗ったら転ぶだけだから。」
たかが買い出しだけど、少しくらい楽しい思いをさせてやりたいと考えての提案だったが、モモの言い分に「確かに…」と思ってしまう自分がいた。
ボンチャリはそうそう転ぶものではない。
だけど、彼女はここに来るまでの間、マングローブの樹の根に足を取られて何度転んだことか。
そのたび「転ぶのは特技なの」と意味不明な自慢をするモモだったが、増えていく膝や肘のすり傷に、途中から抱えて歩こうかとジャンバールは本気で悩んだほどだ。
もし、宙を走るボンチャリから転げ落ちたら…。
考えてただけでゾッとする。
「…そうだな、止めよう。」
結局あっさりとモモの提案を受け入れる。
なんだか、コハクが彼女に対して過保護気味になるのもわかったような気がした。
そんなジャンバールの想いなど知らないモモは、「良かった、気を遣わせないで」とズレた安心をして、油屋を目指した。