第38章 シャボン玉の島
モモの動揺を感じとったのか、ジャンバールがそれ以上、追及してくることはなかった。
「む、しまった。油を切らしていたか…。」
倉庫の掃除が終わって、荷物を整理していたとき、備品の在庫確認を行っていたジャンバールが呟いた。
「油?」
「ああ。ウチの船は潜水艦だからな。油を差さないとすぐに機嫌を悪くするんだ。」
「そうなの…。」
確かにこの船は、空島の不思議な貝殻を使っているというカラクリ仕掛けが多い。
機械にとって、油は命。
そんな油が無くては、この先の航海に支障が出る。
「船長たちはコーティング職人を見つけるのに忙しいだろうしな…。仕方ない、ひとっ走り買ってくるか。」
「えッ、でも…。」
ジャンバールは、この島に入りたくないはずではなかったか。
「なに、ただ油を買いに行くだけだ。お前が心配することじゃない。」
嘘だ。
本当は奴隷時代の記憶が残る、こんな島になんて上陸したくないはず。
「…じゃあ、わたしが買いに行ってくるわ。」
ジャンバールに地獄の過去を思い出させるくらいなら、自分が買いに行った方が何倍もマシ。
そう提案したけど、くすりと笑われてしまった。
「ふ…ッ、それは無理だ。お前にいくつもの油樽を運べるようには思えん。」
「……あぅ。」
そりゃそうだ。
考えなしの発言に恥ずかしくなる。
「心配してくれて、ありがとうよ。だが、平気だ。目の前にやらなくちゃいけねぇことがあるのに、ビビって街に行けないほど、俺は女々しくない。」
そう言ってモモを安心させるように笑うと、ジャンバールはパンパンと身体の埃を軽く払い、倉庫を出て行こうとする。
このまま行かせていいのだろうか。
ひとりで街に行ったら、トラウマに苛まれるのではないか。
「…わたしも、一緒に行くわ!」
考えがまとまらないうちに身体は無意識に動いて、ジャンバールの裾を掴み、そう宣言していた。