第38章 シャボン玉の島
「む…。お前も、一緒に…?」
引き止めるモモを見下ろすと、彼女はコクコクと頷いた。
しかし、彼女は街に行きたくないのではなかったか。
自分を心配するあまり、行きたくない場所に連れて行くのはジャンバールとて本意ではない。
「しかし、そうなると船番がいなくなってしまうな。」
やんわりと船に残れ、と伝える。
「大丈夫よ、ヒスイがいるもの。」
モモの声に、デッキで日向ぼっこをしていたヒスイが「きゅ?」と振り向いた。
「それにわたしがひとりで船番していても、なにもできないわ。」
確かに、他の海賊や賞金稼ぎが船を襲ったとき、戦闘力のないモモがいては撃退どころか逆に攫われてしまうかもしれない。
ローがモモに船番を許したのは、ジャンバールがいたからだ。
彼がモモを大切に想っているのは知っている。
彼女を任された以上、一緒に連れて行くのがジャンバールの責任というもの。
「わかった、一緒に行こう。」
ジャンバールが許しを出すと、モモはパッと顔を輝かせた。
「ありがとう。すぐに準備をするから!」
裾を離して駆け出すと、自室に向かい手早く支度を済ませる。
ずいぶん急な展開だけど、シャボンディ諸島に上陸することができるのは純粋に嬉しい。
「…お待たせ!」
小さなカバンに荷物をまとめ、デッキに戻った。
「じゃあ、行くか。油を買いに行くだけだし、すぐ戻ることになるが…。もし街を観光したいなら、船長たちと合流するか?」
観光は、正直したい。
ローにも今すぐ会いたい。
…けど。
「ううん、そういうつもりじゃないから。すぐに帰ってきましょう。」
いつ海軍に出くわすかわからないのだ。
ジャンバールと同じように、街に滞在するのは必要最低限にした方がいい。
ジャンバールは心得たように頷き、船を降りる。
それに続いてモモもハシゴに足をかけた。
ジャリ…。
島に足をつけると、シルフガーデンとは違う土の感触がした。
改めて、外へ出たのだ…と実感する。
空を見上げると、ヤルキマン・マングローブから放出されたシャボンがふわふわと舞う。
思いがけず始まった冒険に、少しワクワクする心を止められない。
帰ってきたら、ローに聞けるかな。
わたしはあなたの特別ですか…って。