第38章 シャボン玉の島
ローは素敵な人だから、自分がいなくなったあと、すぐに別の“誰か”が彼の隣に立つ。
そんなの、ローの記憶を消した時に、わかっていたことだ。
モモにはこの先の未来もローひとりしかいないけど、彼はそうじゃない。
いくらだって初めからやり直せるんだ。
ローと再会した時、モモは彼の隣に“誰か”がいると思ってた。
それは互いを求め合う恋人かもしれないし、身体を交えるだけの愛人かもしれない。
どちらにせよ、そんな“誰か”の代わりになんて、死んでもなりたくなかった。
だから、ローに身体を求められても頑なに拒否した。
そんなの、わたし自身を見ていないでしょう。
あなたが求めているのは、欲望の捌け口。
他の人と…“誰か”と一緒にしないで!!
そして、この船に乗ったあとは、ローに女扱いされたことに傷ついた。
仲間になったはずなのに、ローはあくまでモモを女として見る。
無意味に傍に置きたがり、男の欲情を向けてくる。
こんなのは嫌だ、これではただ欲望を消化するための愛人のようではないか。
仲間にすらなれなくて、悲しさが募った。
『船長は紛れもなく女嫌いだ。…いや、嫌いというか、興味がないというのか』
それが本当なら、今までのことはまったく別の意味になる。
ずっと、ローが普段身体を重ねるような“誰か”になりたくなかった。
でも、そもそもそんな人は存在しないと言う。
身体を求められることが、たまらなく悲しかった。
けれど、この数年間、ローは誰かに欲情したことなんかないと言う。
愛人のように扱われるのが、苦しくて嫌だった。
しかし、ローはそもそも女に興味を持たないと言う。
ねえ、じゃあ、どうして…?
向けられた欲望が、熱情が、今違う意味の光になってモモを照らし出す。
ロー、わたしは…、あなたのなに?
ついこの間、彼にしたばかりの質問を心の中でもう一度呟いた。
わたしは、あなたの“特別”になれているの?
彼が帰って来たら、仏頂面なその目を見て、まっすぐに尋ねたい。
ねえ、教えて…。