第38章 シャボン玉の島
「そんな…。」
ジャンバールの話に、愕然とする。
だって、政府は、海軍は、民衆を守ってくれるものじゃないの?
海賊で、罪人だったなら捕まってしまった以上、罰を受けるのは仕方ない。
でも、償いの意味があるはずの刑罰は、奴隷になることなんかじゃない。
ましてや、民間人が“気に入られたから”の理由で奴隷になるなんて、絶対おかしい。
それなのに正義を掲げた彼らは、苦しむ民衆ではなく、そんな制度を守るのか。
「天竜人なんて、ただの人間じゃない…!」
魔法を使えるわけでも、神様なわけでもない。
そんな横暴さを許す理由がどこにある!
「お前は優しいな…。」
ジャンバールの大きな手が、壊れ物に触れるように、そっとモモの頭を撫でた。
実際、奴隷であったときの日々は地獄のようなものだった。
奴隷に人権なんてものは存在せず、犬のように扱われても、どんなに虐げられても、文句ひとつ言えない。
それどころか許可がなければ言葉も話せず、少しでも逆らえば容赦なく制裁がくだされ、もっと悪ければ殺された。
死んでいった奴隷たちを、何人も見た。
海賊である自分が、海の上でもなく、戦いの最中でもなく、奴隷として殺される。
こんな屈辱ってあるものか。
そんな死に方だけは御免で、地獄の毎日をただひたすらに耐えた。
「一度奴隷になれば、解放なんてまずあり得ねぇ。だったら潔く死んじまえば良かったのかもしれないが、俺は犬のように地面を這いながらも、意地汚く生きたよ。」
「そんな…。」
奴隷というものが、どういうものか知らなかったモモは、その壮絶さに言葉を失う。
「だが、そんな時だ。…船長に会ったのは。」
当時の“飼い主”の天竜人に連れられて訪れた人間オークション会場。
そこは売られてきた人間たちが、新しく奴隷となる地獄の入口。
その入口で、ジャンバールはローと出会ったのだ。
『俺と来るか? 海賊キャプテン ジャンバール。』
奴隷から人間に戻った日。
あの瞬間を、ジャンバールは一生忘れないだろう。