第38章 シャボン玉の島
「ジャンバールは、どうしてこの船に乗ることになったの?」
掃除をしている最中、世間話をするような感覚で尋ねた。
「船長に多大な恩を受けたからだ。」
「多大な恩…?」
海賊にとって“船長を選ぶ”ということは、とても重要なことだろう。
言ったら命を預けるのと同じことだし、生半可な覚悟がなければ部下にはなれない。
ローとジャンバールの間には、どんな物語があったのだろう。
それは、モモが知らない空白の時間。
そんなモモの疑問に答えるように、ジャンバールは口を開いた。
「俺は2年前まで、天竜人の奴隷だった。」
「え……?」
奴隷…?
言葉の意味は知っていても、実際に聞くのは初めてだ。
昔は人が人を道具のように虐げる時代があったと言うが、この現在でも、そんな制度が残っている国があったのか。
驚きを隠せず、何度も瞬いた。
いや、待って。
ジャンバールは今“天竜人の奴隷”と言わなかったか。
確か、この島にも…。
まさか…とジャンバールを見上げる。
彼がシャボンディ諸島に上陸したがらない理由は…。
「そうだ。俺は2年前、この島で船長に解放された。」
「この島で…!?」
この島にはそんな奴隷制度が残っているということか。
「どうして奴隷なんかに…。」
借金でもしたしまったのか。
はたまた重罪を犯したのか。
「なにもしてねぇさ。ただ、海軍に捕まった。それだけだ。」
ジャンバールはかつて、自ら海賊船を率いる船長だった。
あの時のクルーたちが、今はどうしているのかも知らない。
せめて、奴隷にだけはなっていないといい。
「ヤツらにとっちゃ、人間なんて商品なんだよ。例え民間人でも、気に入られればそのまま奴隷になる。」
「そんな…!」
でも、世界貴族なんて言っても、ただの人間じゃないか。
ジャンバールほどの力があるなら、逃げ出してしまえばいい。
「そうもいかなくてな。奴隷にされると、首に爆弾付の首輪を付けられて、逃げることは死に繋がる。そして、ヤツらを傷つけようものなら、海軍本部から大将が出向いて殺しに来るってわけだ。」
生きるためには従順になるしかない。
ジャンバールはそう言った。