第38章 シャボン玉の島
島に近づくにつれ、上陸の準備に向けて、船の上は慌ただしくなっていく。
「あー、ペンギン! そっちはダメだよ、島の正面になるから。もっと裏から入らないと!」
前回も来たはずなのに、うっかり正面に停泊させようとするペンギンを、ベポが叱り飛ばした。
「…ヤベ、忘れてた。面舵いっぱーい!」
島の裏側に向けて大きく舵を取る。
「やっぱり、海賊ってのは堂々と正面からは入れないもんなの?」
コソコソと裏に回る船を見て、コハクは質問した。
「んー。島にもよるけど、大きな街があるところはだいたいそうかな。特に、このシャボンディ諸島は世界政府のお膝元だからな。」
「「世界政府のお膝元!?」」
ベポの言葉に、モモとコハクが口を揃えて聞き返す。
「わ、どうしたの、2人とも…。あれ、知らなかった? シャボンディ諸島は聖地マリージョアの近くだから、なにかあればすぐに海軍が駆けつけられるようになってんだ。」
以前はすぐ近くに海軍本部が存在し、なにかあれば大将クラスが群を率いてやってくるという、恐ろしい場所だった。
今は海軍本部が本拠地を移動させたため、大将がすぐに出向くわけではないが、それでも旧海軍本部には階級持ちの実力者が常に在駐している。
その最たる理由が、この島に時折現れる世界貴族…いわゆる天竜人の存在だ。
彼らに傷ひとつでも付ければ、たちまちその者は世界政府を敵に回すことになる。
シャボンディ諸島は、この幻想的な風景とは異なり、とてもドロドロした島なのだ。
「天竜人…? そんなヤツらがいるなんて、知らなかった。」
「ヤツらは人を人とも思わないクズ共だ。コハク、モモ、もしヤツらと出くわすようなことがあっても、くれぐれも手を出すなよ。」
天竜人を知らないモモとコハクに、ジャンバールが重々しく告げた。
「…? う、うん。わかった。」
そう忠告するジャンバールの雰囲気が、いつもと違ったように見えて気になったけど、とりあえず約束をした。
政府のお膝元…か。
ヤルキマン・マングローブで出来た島。
とても興味があったけど、どうやら自分は上陸できそうにない。
セイレーンという鎖は、いつでもモモを縛りつけるのだ。