第38章 シャボン玉の島
遠くに木々が密集した島が見える。
あれが、シャボンディ諸島…。
よその島に足を踏み入れるなんて、いったいどれくらいぶりのことだろう。
一生シルフ・ガーデンから出ないつもりでいたのに、こうして新たな島を訪れることになるなんて、今でも信じられない。
もしかしたら、夢なんじゃないかって思うことがある。
本当は自分は家のベッドで眠っていて、目を覚ましたら、島を出たこともローと再会したことも全部夢で、いつもの日常に戻るんじゃないかって…。
(夢だったら、早く覚めて欲しいな…。)
長引く分、起きたときが辛くなるから。
少しベタつく潮風が頬を撫でる中、モモはそっと目を瞑った。
「…母さん。」
「……!」
いつの間にか後ろに来ていたコハクに呼ばれ、ハッとする。
「びっくりした…、なぁに?」
感傷的になっていた気分を捨てて、笑顔を作る。
「いや…、その。…ローと本当はなにがあったんだよ。」
「え…。」
ああ、きっとさっきのことか。
あからさまにローを避けているから、みんなが心配しているのはわかってる。
わかってるけど、答えられない。
「なにも、ないわ…。」
結局はぐらかすことしかできなくて、気まずくなってしまうけど、コハクはその答えを聞いて「そっか…。」とだけ返事をする。
優しい彼は、モモが言いたがらないことを無理に聞くようなことをしない。
「でも、珍しいじゃん。母さんがそんなにずっと怒ってるなんて。」
モモはもともと、あまり怒りを持ち続けられない性格をしている。
こんなふうに何日も怒り続けるモモなんて、初めて見た。
「……。」
怒り続ける…か。
心を占める、この感情。
その正体を突き止めたくて、胸元に手を当てた。
「別に、怒ってるわけじゃないわ。」
そう、この感情は、怒りではない。