第38章 シャボン玉の島
それから1週間が経ったある日のこと。
「みんなー、シャボンディ諸島が見えたよ!」
展望台から海平線を眺めていたベポが大きな声で叫んだ。
島の発見に反応したクルーたちが、次々にデッキへ飛び出る。
「おお~、本当だ! 懐かしいなぁ。」
「俺、またボンチャリに乗りたいッス!」
1度シャボンディ諸島を訪れたことがある彼らは、島の楽しみ方をすでに知っているようだ。
「ボンチャリって?」
「シャボンに器具をくっつけて漕ぐ乗り物ッスよ。」
「シャボン玉に乗れるのか!?」
石鹸水にストローを浸して吹くシャボン玉しか知らないコハクは仰天する。
「シャボン玉っていっても、ヤルキマン・マングローブの樹液よ。」
ヤルキマン・マングローブに適した気候の範囲内なら、樹液に含まれる特殊な樹脂が強力な効果を発揮する。
察するにシャボンディ諸島は、昔からシャボンの力を活かしたシャボン文化が栄えているのだろう。
モモはコハクにシャボンの性質について、詳しく説明してあげた。
「へえぇ~、オレも乗ってみたいな。ボンチャリ。」
「みんなで乗ろうぜ。コハクは足が届かないだろうから、俺の後ろに乗せてやるよ。」
「バカにすんなよ、シャチ! オレひとりで乗れる!」
親切のつもりでお兄さん風を吹かせるシャチに、コハクが目をつり上げて反論した。
「まあまあ、怒らない。ボンチャリにはいろんな種類があるから、コハクが乗れるやつもあるッスよ。」
「…ペンギンがそう言うなら、許してやるよ。」
宥められて渋々引き下がる。
「お前って、ペンギンの言うことは素直にきくな。その俺との差は、いったいなんなんだよ。」
ガックリと肩を落とすシャチに、生意気な子でゴメンね、とモモが謝りたくなる。
なんとも言えない関係だが、コハクはこの船でしっかり絆を築いているようだ。