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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第38章 シャボン玉の島




ドロドロとした白濁でモモの肌を汚し、熱が外へ放出されたおかげで、ローの頭に冷静さが戻ってきた。

「ハァ…、ハァ…。……悪い。」

すぐに布巾を引き寄せ、汚した肌を綺麗に拭き取る。

ついでに乱れた衣服も簡単に整えた。

「……。」

ずっと動かないでいたモモが、ゆっくりと身を起こす。

先ほどの余韻がまだ残っているのか、動きが鈍い。

思わず手をさしのべようとすると、ヒュン…と空を切る音が聞こえた。


バチン…!

ローの左頬に、衝撃が走った。

目の前にはたった今、振り下ろされたばかりの手のひらを握りしめるモモの姿。

じんじんと熱くなる頬が、彼女に打たれたことを教えてくれる。

女に殴られたのは、初めてだ。
だからつい、固まってしまったけど、それほどモモを傷つけてしまったと今になって気がつく。

しかし、モモは俯いたまま、顔を上げようとしない。

「……。」

「……オイ。」

沈黙に耐えきれず、思い切って声を掛けると、ピクリと反応したモモがようやく顔を上げた。

しかし、その表情は…。


「……ッ。」

金緑色の瞳に涙をいっぱい溜めて、さっきまで重ねていたはずの唇を力いっぱい噛みしめている。

初めて見る、モモの怒りの表情。

動揺した。

彼女はどんなときでも、こんなに感情を露わにして怒ったことなどなかったから。

なんて声を掛けたらいいかわからず、言葉を失っていると、モモの方が先に口を開いた。


「……最低。」


そう一言だけ呟くと、モモはテーブルを飛び降り、弾けるようにキッチンを出て行った。

ローはその後を追うことができず、ただ立ち尽くすしかない。


しばらくそうしていると、こちらへ向かってくる軽い足音が聞こえてくる。

もしかしたらモモかと思って目を向けると、ドアを開けて入ってきたのはコハクだった。

「ロー、なんか…母さんのこと怒らせた?」

モモの様子を見たのだろう、そう思われても仕方がない。

「ああ。」

「…なにしたんだよ。」

「別に…。」

ただ、嫌われることをしただけだ。


欲しいものは、何ひとつ手に入らないのに、今日ローは“モモの怒り”だけを手に入れた。

ただ、それだけ。



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