第38章 シャボン玉の島
目まぐるしく心の中を侵略する感情。
それが色欲の感情なのかといえば、少し違う。
確かに、未だかつて感じたことのない欲情を持て余し、たびたび彼女にぶつけてしまうけど、これが本当にしたかったことかと言えばそうではないのだ。
では、自分はいったいモモになにを求めているのだろう。
『あッ、見て! …流れ星!』
ふとあの夜、薬草畑で見た彼女の笑顔を思い出した。
流れ星なんかより、よほど眩しかったあの笑顔。
あれ以来、あの笑顔咲かせるモモを見たことがない。
戸惑ったり、困らせたり、そんな顔ばかり。
それもそのはず。
ローがそうさせているのだから。
でも、あの時自分は思ったじゃないか。
珍しい薬草でも、豊富な知識でもなく、星に喜ぶモモが欲しい…と。
そう、それは今も変わらない。
優秀な薬剤師でも、情を交わす愛人でもなく、輝く笑顔のモモが欲しい。
彼女に求めているのは、ただそれだけのはずなのに。
身を屈ませ、そっとモモの唇に柔らかな口づけを落とした。
こうして手を伸ばせば、彼女の身体も唇も手に入れられるのに、1番欲しいものだけが手に入らない。
どうしたら手に入れられるのかも、わからない。
女に興味がなかった。
笑わせようとか、喜ばそうとか考えたこともない。
誰かを笑わせるには、いったいどうしたらいい…?
明確な答えすら出せないまま、ローは熱くたぎる欲望を、モモの脚に爆ぜさせた。