第38章 シャボン玉の島
ガシッとモモがローの腕を掴んだ。
「……?」
「ヤルキマン・マングローブのことについて、少し話してもいいかしら。」
「は…?」
急にそんなことを言うモモは、僅かに頬が紅潮し、興奮しているように見える。
言っている意味はわからなかったけど、まるで子供のような無邪気な表情に、思わず頷いてしまった。
「あ…ッ、バカ…!」
隣でコハクが慌てたように呟いた。
しかし、もう遅い。
「なぁに、コハク。あなたも話が聞きたいの?」
「え…!? いや…、ううん。オレ、みんなと部屋の片付けがあるから…また今度にするよ!」
ごめんな、ロー。
コハクはすぐにローを見捨てると、みんなに向かって「行こう」と声を掛け、早々にキッチンを出て行った。
モモには悪い癖がある。
知らない植物の名前や姿を発見すると、頭の中からユグドラシルの知恵を引っ張り出し、興奮覚めやらぬまま、周囲の人間に語り出すのだ。
なぜならばモモは薬剤師であると同時に、植物学者でもあるから。
いつもはその犠牲になるのはコハクの役目だが、コハクはその長年の経験から、モモがこの状態になったら当たらず障らず傍を離れる…という防御方法を心得てる。
お前が悪いんだぞ、ロー。
母さんの話を聞いちゃうから…。
こうなってしまっては、コハクにできることは、他の仲間に被害者がでないよう、できるだけ遠ざけるということだけ。
ローを生け贄にし、モモから離れることでコハクはしっかりと残りの仲間を守ってあげた。