第38章 シャボン玉の島
なにはともあれ、海底10000メートルの魚人島にも、新世界にも、シャボンディ諸島へ行ってコーティングをしないことには始まらないってことは理解した。
「そのシャボンディ諸島には、あとどのくらいで着くの?」
諸島というからには、大きな島なのだろうか。
「うーん、シャボンディ諸島は本当は島じゃないし、ログもとれないから正確にはわからないけど、あと1週間もすれば着くんじゃないかなぁ。」
航海士であるベポが、海図とにらめっこしながら唸る。
「え、シャボンディ諸島って、島じゃないの?」
「うん。諸島って名前は付いてるけど、正しく言えば樹の集合体だよ。」
「樹の集合体…!?」
ガタリ、と身を乗り出したモモに、「あ、これはヤバイ」とコハクは内心思った。
「シャボンティ諸島は、ヤルキマン・マングローブっていう樹が集まってできた島なんだ。」
「ヤルキマン・マングローブ…!」
聞いたことがない植物の名前。
しかし、知らないわけではない。
モモには“知らない植物の知恵”など存在しないのだから。
頭の中に眠る、ユグドラシルの知恵を開き、情報を引っ張り出す。
「ヤルキマン・マングローブ…。世界最大のマングローブね。その根っこからは特殊な天然樹脂が分泌されていて、樹が呼吸するたびに空気を含んで、シャボン玉みたいに飛んでいく…。」
「…お前、詳しいな。」
スラスラとモモの口から出る説明に、ローが驚く。
シャボンディ諸島の存在すら知らないくせに、ヤルキマン・マングローブのことはそんなに詳しいなんて。
なぜだ? と尋ねようとしたローの裾をグイグイと引っ張る人物がいた。
チラリと視線を向ければ、コハクがフルフルと首を振り「止めておけ」と訴える。
これはモモの悪い癖なのだ。
「……?」
意味がわからず首を捻るローに、モモがズイとにじり寄った。
ああ、もう遅かったか。