第37章 冒険の海へ
どうしてみんなが、そうまでしてモモに隠したか。
それは、知っていれば自分はなにがあっても船へ近づかなかったから。
わたしは、島を離れたくないのよ…。
この船に、乗る資格なんてない…。
みんなは覚えてないだろうけど、自分はかつて、大きな罪を犯したのだ。
今さら自由な海へと旅立っていい身分じゃない。
「降ろして…。海へは、出ない。」
自分を支えるローの腕を突き放そうとした。
抵抗を続けるモモに、ローが顔をしかめてなにかを言おうとした。
しかし、その前に、彼女の手をコハクが握った。
「母さん、一緒に海へ出ようよ。」
「……無理よ。」
いくら愛する息子の願いでも、それは聞けない。
「なら、オレも行かない。」
「…コハクッ」
「オレが母さんを置いて、ひとりで旅立てると思うの? 母さんが行かなきゃ、俺も海へは出ないよ。」
それじゃあダメだ。
コハクをいつまでも島に閉じ込めておくわけにはいかない。
「なあ、母さん…。もういい加減、自分のことを許してあげてよ。」
「……!」
「オレも、きっと父さんも、誰も母さんを恨んでない。お願いだから、オレの好きな母さんを、もう自由にしてやってよ。」
恨んでない…。
コハクがそう思っているのは知っている。
でも…、ローは…。
記憶が無い彼に聞いたって無駄なのに、ついローを見てしまう。
するとローはモモを抱く腕を強くしながら、横暴に言った。
「どのみちお前はこの船から逃げられねェ。出航した船は、もう二度と島に戻らない。おとなしくここにいるんだな。」
いいの…?
ここにいても。
いいの…?
また海へ出ても。
ねえ、いいの…?
あなたの傍にいても。
モモの頬に、自然と涙がつたった。