第37章 冒険の海へ
やれやれ、なにがオレの願いを…だよ。
まるでコハクが懇願したかのような言い方に、思わず苦笑した。
モモは知らない。
あの時、ローが自分を追いかけてきたときに、交わした話の内容を。
『お前の願いを、ひとつだけきいてやる。』
コハクを船に乗せるため説得しにきたはずのローは、なぜだかそんな的はずれなことを言い始めた。
別に願いなんかない。
そう答えたコハクに、ローは堂々とこう言い放つ。
『お前になくても俺にはある。』
それはオレの願いじゃないんじゃないか?
ローの言ってることに呆れるほかなかったが、そこまでして自分に願わせたいことはなんだろう。
興味があったから、聞いてみた。
『そうだな、例えば……アイツをこの島から連れ出すこと、とかな。』
アイツ…。
ローの指す人物がモモのことだと、すぐにわかった。
母さんを、島から出す?
そんなのは無理だ。
だって母さんは、父さんからオレを奪ったことを、そしてオレから父さんを奪ったことを罪だと思っている。
セイレーンだから、なんてただの言い訳。
その思いに縛られているからこそ、モモはこの島を離れない。
まるで罪を償う囚人みたいに、ずっと…。
そんなんじゃない。
罪だなんて思わないで。
コハクがいくら言ったって、モモの心は変わらない。
誰がモモを許しても、彼女自身が自分を許せないから。
そんな母を連れ出せるはずない。
だから、コハクは無理だと首を振った。
自分が旅立つ以上に、そんなことはあり得ない。
そう答えたら、ローは自信満々に笑ってこう言ったんだ。