第37章 冒険の海へ
ローに許可をもらったコハクは、ホクホクと本を運び始める。
さすがにひとりじゃ無理だ。
仕方なくモモも手伝い始める。
しかし、本を拾い上げるうち、1冊の本の前で手を止めた。
「……これ。」
「ああ、それ…。母さんのだったよね。」
モモが拾い上げたのは、古びた植物図鑑。
これは昔、モモがローにもらった思い出深い本だ。
もともとはローがコラソンにもらった大切な本。
しかし、植物好きなモモのために、ローは貴重な情報と思い出が詰まったこの本をモモにくれたのだ。
「それ、持って行ってもいい?」
「え…。」
コハクがこの本を欲しがると思わなくて、驚いてしまう。
「だって、ほら。海の向こうには、いろんな植物がいるんだろ? コレがあったほうが便利だし。」
「……そうね。」
モモにとっては、数少ないローとの思い出の品。
だけど、これも良い機会なのかもしれない。
つい、ローとの思い出を恋しがって船から持ってきてしまったけど、もともと彼の記憶から消えた自分が持ち出してはいけない代物だったのだ。
彼のものが、彼のもとへ帰る。
それが正しい形のように思えた。
「…いいわ、持っていって。」
大丈夫。
本がなくなっても、ローとの思い出はモモの心の中に残っているから。
「ありがとう、母さん。」
コハクは手早く植物図鑑を拾い上げると、両手いっぱいに本を抱えて海賊船へと走り出した。
(ごめんな、母さん。)
モモにとって、この植物図鑑が大切なものだってことはよく理解していた。
これを持って行きたいと言ったとき、動揺したモモの表情に心が痛んだ。
でもさ、だからこそ、持って行かなきゃいけないんだ。
母さんが大切にしていたものは、オレが全部持って行く。
だから、安心してよ。