第37章 冒険の海へ
「…ヒスイ、母さんに言ったのか?」
2人だけの秘密だったのに。
最初に秘密を打ち明けた、自分の相棒を疑った。
「きゅうぅ…。」
しかし、緑の相棒は触角を揺らして首を横にぷるぷると振る。
それならば、なぜ…。
「そんなこと誰から教えてもらわなくてもわかるわ。だって、わたしはあなたのお母さんだもの。」
ハッとし顔を上げれば、優しい母の眼差し。
大好きなはずの眼差しが、今は痛い。
「コハク、ローは優秀な医者よ。彼についていけば、あなたもきっと素晴らしい医者になれる。」
間違いない。
これだけは自信を持って言える。
コハクの夢には、以前から気がついていた。
薬の効能や、どんな病気に効くかを知りたがり、島にたまに立ち寄る商船があれば、船医を探し出して質問責めにした。
血は争えないのね…。
そんなふうに微笑ましく思うと同時に、彼の夢を叶えてあげられないことに心苦しさを感じていた。
モモが夢を追い続けたように、コハクにも夢を追わせてやらねば。
だから、今度メルディアが訪れたら、彼女にお願いしてコハクを外に連れ出してもらおう…。
そう考えていた。
ローと再会したのは、そう決意した矢先の出来事。
これって、まるで運命のようではないか?
医者になりたいと願うコハクの前に、突如現れたロー。
決して知られることのない、父子の対面。
そう、ローはモモと再会するためにここに来たのではない。
きっと、コハクのために来てくれたのだ。
『コハクを海へ連れて行って。あの子は医者になりたいの。』
ずうずうしくて、言えなかった願い。
だけど、彼はモモの願いを叶えてくれるという。
互いに事実を知らなくても、これから2人は共に海で生きるのだ。
1番近いところで。
これ以上、幸せなことなどない。
だからわたしは、ひとりでだって平気なの…。