第37章 冒険の海へ
「オレの、夢…?」
母は、勘違いしている。
コハクは決して、外の世界に出ることを、ましてや海賊になることを夢だと思っていない。
オレの、夢は…。
「夢なんかないよ。…あるとすれば、いつか母さんと一緒に島の外へ出ることだ。」
それは嘘じゃない。
ずっとずっと、心を痛めていたんだ。
父を想い、コハクを想い、だけど自分自身のことだけは想えない。
そんなモモの姿に。
いつかこの島から解放されて、自由になったモモとどこまでも行きたい。
それは、まぎれもないコハクの夢。
「だから、もしオレを島の外へ出したいのなら、母さんも一緒でないと無理だよ。」
もし、この提案がコハクひとりではなく、モモも一緒だというのなら、コハクは喜んで首を縦に振るだろう。
優しい子…。
モモが愛した息子は、ため息が出るほど優しく育った。
それゆえに、もう彼を解放してあげなければ。
この島からも、わたしからも…。
「ありがとう、コハク。あなたがそう言ってくれることは、すごく嬉しいわ。だけど、わたしは一緒に行けない。」
自分がセイレーンという事実は、いつ何時、それこそ一生、モモについて回る事実。
その事実と贖罪の想いが、モモをこの島に縛り付ける。
「だったらオレも、行かないよ。」
「いいえ、コハク。自分を誤魔化してはダメ。あなたは自分の夢を追って、旅立たなくちゃ。」
自分のせいでコハクがなにかを犠牲にするのを、モモは見たくない。
「だから…! オレには夢なんかないよ!」
勘違いしないでくれ。
オレの夢は、外の世界でも海賊でもなく…--。
「コハク。あなた、医者になりたいのでしょう…?」