第37章 冒険の海へ
「コハク、楽しかった?」
「うん、すっごく! だって島ひとつ違うだけで住んでる動物も、植物も全然違うんだ。見たことないものがいっぱいだったよ!」
新しい発見が盛りだくさんだったのか、コハクは瞳をキラキラさせて話した。
そんな瞳、ここ最近見たことなかったな。
「だからさ、母さんも今度一緒に行こうよ!」
あの感動を母と共に味わいたい。
コハクはそんな気持ちでいっぱいだった。
しかし、モモはその誘いに頷くことなく、ただ微笑みだけを返す。
その表情に、母は島から出るつもりがないことを悟った。
「えっと…、それで母さんの話っていうのはなに?」
自分の提案が通らなかったことに、少しだけ落ち込みながら尋ねた。
モモはコハクに話したいことがあると言っていたはずだ。
「ねえ、コハク。今回の冒険をあなたは人生で1番の冒険だなんて思っていない?」
「え…?」
唐突な質問だ。
けれど確かに、こんなふうに冒険することはもう二度とないかもしれない。
そう思えば、モモの言うとおり、これが人生で1番の冒険なのだろう。
「でもね、世界にはもっと驚くことや、ワクワクすることがたくさんあるのよ。」
人で溢れかえる大きな港町。
大砲音轟く敵船との戦闘。
世界樹が息づく聖なる島。
水路張り巡る造船島。
白い雪の降る医者のいない島。
たくさんの出会い。
そして別れ。
この広い海には、まだまだ未知なる冒険が待ち受けてる。
「そんなこと、オレだってわかってるよ…。」
でも、そんなものはコハクにとって夢の話だ。
今はこの冒険を経験できただけで満足。
…そう、満足なんだ。
「本当に? 行ってみたくはないの?」
まだ見ぬ世界を、その目で見たくはないのか。
「そりゃァ…ッ、行ってみたいけど…!」
今日のモモは意地悪だ。
どうしてそんな興奮が覚めてしまうようなことを言うのだろう。
「だったら、あなたはこの島を出なさい。」
「……え?」
一瞬、なにを言われたかわからなくて、コハクはバカみたいに聞き返す。
「コハク、あなたは明日、ローたちと一緒に海へ出るの。」
理解できるまで、何度でも言おう。
それが、モモの願い。