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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第36章 心に灯る火




しばらく声も掛けられずに立ち尽くしていると、視線に気がついたのかモモがこちらを振り向いた。

発せられる言葉が拒絶を表すものだったらどうしようかと、ガラにもなく怖くなった。

しかしモモはそんなローの気持ちなど気がつきもせず、少し驚いたあと、首を傾げてみせた。


「……なぁに?」

黙って立ち尽くしているのだ、不審に思われても仕方ない。

ひとまず、開口一番拒絶されるほど嫌われていないことに安堵した。

「…風邪を、引くぞ。」

もっと言うべきことはたくさんあるのに、出てきた言葉はそんな関係もないこと。

「今日は暖かいから大丈夫よ。」

春島であるシルフガーデンは、時折肌寒い日もあるが、今夜はとても暖かい。

「なにか用事?」

ローがなにか言いたそうにしていることに気がついたのか、そんなふうに尋ねてくる。


「……礼は、考えたのか。」

「礼…?」

本気でわからなそうなモモに、ローは照れ隠しも含めてわざとぶっきらぼうに言う。

「言っただろう、ベポの治療が終わるまでに なにか考えておけと。」

ああ、確かにそんなことを言っていた。

礼のひとつもできなきゃ、面子が立たないとかどうとか。

「俺に叶えられるものなら、なんだって叶えてやる。」

だから、そんな顔しないで欲しい。

そんなローの言葉を聞いて、モモは少しだけ笑った。


「それはお礼なの? …お詫びじゃなくて?」

先ほどの行為に対する詫びのつもりか。
モモはそう言った。

「…礼だ。」

彼女にしたことを悪いと思うけれど、後悔するつもりはない。

だから、謝るつもりもない。

自分がしてやれるのは、詫びではなくて礼だ。


「そう…。本当に、なんでもいいの?」

昨日までなにも思いつかないと言っていたモモだが、今は違うらしい。

「ああ、二言はねェ。」

「それなら、ひとつだけ…叶えて欲しいことがあるわ。」

それは、ローに頼むにはずうずうしいと思っていたこと。

だけど本当は、ローにこそ叶えて欲しかった。


「…なんだ。」

彼女の願いなら、どんな無理難題でも叶えてやりたい。


「それはね…--。」



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