第36章 心に灯る火
『時の隙間に流れ込む風。あの船の、その片隅で揺れるくせっ毛。ただ見とれていたわたしは、君に一生分の恋をしたんだよ。』
……恋。
今彼女は、コハクの父親のことでも想って唄っているのだろうか。
そう思った途端に、邪魔をしてやりたくなる。
『まるで永遠だと信じていた日々。当たり前に傍にいたこと。そんな奇跡を…疑いもせず。』
切なげに唄うモモに、邪魔をしてやろうした気持ちが萎む。
本当ならモモは、その男の傍にいたかったのだろう。
でも、もうきっと会うつもりはないのだ。
『今の君には、この気持ちうまく言えなくて。わたしたちの心は、どうして離れていくの?』
コハクは言った。
いつかモモが父に会いたいと言ったなら、その時は自分が手を引いて連れて行くと。
しかし、モモを眺めているうち、そんな日は永遠に来ないと思った。
彼女は自分を許さないだろう。
だから、愛しい人に会いに行くなど、決して言わない。
…そう思った。
『……届かなくて。』
モモの想いは、もう届くことがないのかもしれない。
だったら、代わりに…。
『あの日の願いは、置き去りのまま。』
『君がくれた宝物。その奇跡、わたしは忘れない。溢れそうな喜びも、あの星に隠して。』
月明かりに照らされた彼女の顔が、なんだか泣いているように見えて、堪らず抱きしめてやりたくなる。
求めている腕は、ローのものじゃないとしても。
『……気づいていた。』
気づきたくない。
でも、気づいていた。