第36章 心に灯る火
モモの部屋から出ると、廊下の先に小さな勝手口を見つけた。
どうやら歌声は、そちらから聞こえてくるようだ。
ギィ…とドアを押すと、勝手口の先には小さなバルコニー。
そこにガウンを羽織って座り、夜空を見上げて唄うモモの姿を見つけた。
『君の進む未来の中に、わたしはいない。そんな過去もない。まだ少しだけ傷を抱えたあなたは、夢の続きを見ているだけ。』
なにに向かって唄っているのか。
モモの視線の先には、大きな満月が浮かんでいた。
『思うままに、色褪せていくと思ってた。二度と出逢うこともなく…。それでもこの世界、動き続けて。』
モモと身体を重ねた時。
感じたあの想いはなんだったのだろう。
あの気持ちの正体は…。
ローはまだ、その答えを見つけられずにいた。
『君がくれた宝物。その奇跡、わたしは忘れない。溢れそうな喜びも、あの月に隠して。』
モモがくれたものは、いくつもある。
ベポの病を治す薬。
彼女がいなければ、正直ベポはどうなっていたかわからない。
仲間たちとの和やかな空気。
ローは自分が扱いにくい人間であることを知っている。
そのため仲間たちは、ローが機嫌を悪くすると どう対応したらいいか困ることも多いだろう。
しかしモモはそんなローを知り尽くしたかのように、簡単にその場を和やかにする。
仲間たちは久しぶりに楽しそうな笑顔を見せていた。
深い眠り。
眠ることが苦手な自分だが、どうしてだか彼女の傍にいると穏やかな気持ちになり、自然と睡魔がやってくる。
できることなら、毎日腕に抱いて眠りたい。
そして、胸にくすぶる情熱。
名前の知らない情熱は、ローをひどく動揺させる。
だというのに、そんなものに振り回される自分を悪くないと思っている。
これは、間違いなくモモがくれた熱。
『……気づいていた。』
そう、気づいていた。
ベポの病が完治しても、それだけじゃ船を出せないっことを。
彼女に傍にいて欲しいと願う、この気持ちを。