第36章 心に灯る火
「これは…。」
ローの目に留まったのは、1冊の本。
それは、植物図鑑だった。
グランドラインの様々な植物が記載された図鑑。
ローはその本をよく知っている。
以前、全く同じものを持っていたのだ。
子供の頃、コラソンに貰った植物図鑑。
当時のローとコラソンは白鉛病を治すために旅をしていて、コラソンは少しでも希望を見いだそうと必死で医療に関する本を掻き集めた。
なのになぜかこんな図鑑まで買ってきたコラソンに、当時のローは呆れたものだ。
『コラさん! こんな図鑑なんか買ってきてもしょうがないだろ!』
『なにィ!? 図鑑だったのか…。てっきり医学の本だと思ったのによぅ。でもホラ、この薬草なんか、効きそうじゃねぇか!?』
そう言って彼は、まったく効きそうにもない植物にでかでかと丸をつけた。
どこをどう見たら、そんな勘違いができるのか。
彼のドジっ子ぶりには恐れ入る。
そういえば、そういうところはモモに少し似ている。
彼女は全力で否定するだろうが。
だとしたらコハクは、あの頃のローに確かによく似ているかもしれない。
同じような人間がいると、傍にいる人間まで似てくるのだろうか。
懐かしい思い出に浸りながら、ローは植物図鑑を手に取った。
大切にしていたはずの、コラソンの本。
けれどいつの間にか、無くしてしまった。
船を乗り換えるときか、はたまたもっと前なのか。
いつ無くなってしまったのかは、もうわからない。
でも、こうしてモモと同じものを持っていたという事実が、彼女と自分の距離を少し縮めてくれたように感じた。
あの日、コラソンが丸を付けた植物はどのページだっただろうか。
そんなことを思いながらページを捲ろうとした時…。
『───。』
微かに聞こえた歌声に、ローは手を止めた。
モモの歌声だ。
彼女の歌声は2度しか聞いていないけど、聞き間違うはずはない。
ローは図鑑をテーブルに戻し、歌声を頼りにモモを探して部屋を出た。