第36章 心に灯る火
ローの睡眠は浅い。
眠らない生活に身体は慣れていたし、例え安心できる海賊船の自室であっても、熟睡できることはなかなかなかった。
それなのに、この島に来てから自分はなんだかおかしい。
他人の前でうたた寝することなど、あり得ない。
ましてや、他人と同じベッドで眠ることなど、絶対にあり得ないはずなのに…。
モモが意識を失ったあと、久しぶりの情事に心地のよい疲労感が押し寄せ、彼女を腕に抱いたまま共に横になった。
眠るつもりなどなかったはずなのに、モモの体温になぜかひどく安心し、瞼が重くなってそのまま目を閉じた。
そうしてローは昨日と同じように、深い眠りへと誘われたのだ。
急に腕の中に温かみが感じられなくなって、ローは目を覚ました。
無意識に彼女の存在を確かめ、いるはずの場所にいないことがわかると、一気に覚醒してガバリと起き上がる。
「…モモ。」
名前を呼んでみるけど、返事はない。
(どこへ…行った?)
自然と焦る気持ちが生まれてくる。
無理やりにひどい仕打ちをしたのだ、ローの傍にいたくなくて家を出て行ってもおかしくはない。
窓の外に目を向けると、外はすっかり暗くなっている。
ふと夜の森で狼に囲まれたモモの姿を思い出した。
胃のあたりが急激に重くなっていく。
あの瞬間を目の当たりにしたときだって相当焦ったけど、今はそれの比じゃないほど肝が冷えていくのを感じていた。
それほど、モモはローの中で大きな存在となっているのだ。
跳ねるようにベッドから飛び降り、脱ぎ散らかした衣服を身にまとう。
モモの姿を見るまではとてもじゃないけど安心できない。
彼女の姿を探して部屋を飛び出した。