第36章 心に灯る火
モモには、いくつかの願いがあった。
それは夢の中で見るような、空想に近い願い。
それがこの数日で一気に叶ってしまった。
例えば、ローと仲間たちに会いたい。
潜水艦をひと目見てみたい。
コハクとローを会わせたい。
そして、ローと触れ合いたい。
このたった数日間は、まるで神様がくれたご褒美のような日々。
おかげでモモが描いた願い事は、流れ星なんかではなく、ローと仲間たちによって叶えられた。
でも、あとひとつだけ。
あとひとつだけ、叶っていない願い事があるの…。
心地よい温もりに包まれて、モモは目を覚ました。
ひどく身体が怠い。
まだ起きたくないと温もりに頬を擦り寄せれば、身体を包む拘束がギュッと締まる。
「……?」
なんだか苦しい。
それに耳に届く、この規則正しい旋律はなんだろう。
重たい瞼をこじ開け、温もりの正体を探る。
その瞬間、バッチリ目が覚めた。
「───ッ!?」
目の前にはド派手に描かれたハートのタトゥー。
そしてその少し上には、安らかな寝息をついて眠るローの顔が…。
ああ、一気に思い出した…。
気を失う前の情事がフラッシュバックし、モモはひとりで赤面する。
ていうか、よく見れば自分もローも、あられもない姿をしている。
特にモモなど、身体のあちこちに赤い花が咲き、いやらしいことこの上ない。
(ひぃ…ッ)
ローを起こさないよう、悲鳴をかろうじて喉の奥に押しとどめたモモは、彼の腕を上手にかいくぐり抜け出した。
(あ、危ない…。こんな姿をローの前で晒したら、恥ずか死ぬところだわ。)
晒すもなにも完全に今さらなことだが、頭のネジが飛んでたときと、冷静な今は違う。
とにかく、ローが起きる前に身支度を整え、情事の痕跡は消しておかないと…。
鈍く痛む腰をさすりながら、モモは着替えをするために、ローを起こさないよう こっそり部屋を抜け出した。