第36章 心に灯る火
「な…、なに…言って…。」
ローの衝撃的な言葉に、ようやく正常な思考が戻ってきた。
だけどこんなことなら、あの時、あのまま気を失ってしまえば良かった。
「言葉の通りだ。…もう一度抱かせろ。」
「嫌よ…!」
拒絶したところで、ローが引いてくれないことくらい、もうわかっていたけど。
「もう、十分でしょう? いい加減にして…ッ」
もういい加減、心を振り回さないで欲しい。
傷つきたくないから、モモは逃げることしかできない。
しかし、ローはモモの拒絶に苛立ったように眉を寄せた。
「十分…? んなわけねェだろ、全然足りない。オイ、どうしてくれる、お前のせいで高ぶったまま落ち着かねェ。」
「……ッ」
そんなの知らない。
そう言い返してやりたかったけど、喉が震えて声にならなかった。
わたしを、求めてくれるの…?
「…モモ。」
ドクン…ッ
あれから、初めて名を呼ばれた。
知らなかった。
あなたがわたしの名を呼ぶだけで、こんなに心が崩れていってしまうなんて。
「…抱かせろ。」
情熱的な言葉を吐き、ローの唇がモモの唇に優しく触れる。
本当に絶望したくないのなら、他の“誰か”になりたくないのなら、モモは何がなんでも彼を拒絶しなければならなかった。
言葉で、身体で抵抗するだけじゃなく、それこそ歌を唄ってでも。
けど、それができなかったのは、きっと心のどこかで全く正反対の想いがあったから。
愛されたい、求められたい。
それがほんのひと時であったとしても…。
モモは自分が傷つきたくないから、ローを拒絶した。
そして狡く汚いわたしは、自分の手を汚すことなく、彼を求めてしまうのだ。
やっぱりわたしは、最低な女ね…。
落ちてくる唇を、目を瞑って受け止めた。