第36章 心に灯る火
可哀想なことをした。
口淫だなんて一方的なことをさせておきながら、汚いものを口の中に放ってしまった。
追い討ちをかけるような行いに、さすがのローも心苦しさを隠しきれない。
たった一度の射精だけではローを苦しめる熱は引かなかったけれど、それでもモモに対する申し訳なさから、ほんの少しだけ冷静を取り戻すことができた。
『吐き出せ』
そう彼女を促そうとした瞬間だった。
モモが口の中のモノを、ゴクリと飲み込んだのは…。
オイ、なにしてくれてんだよ…。
今、なにを飲み込んだのかわかっているのか。
喉を下っていったのは、たった今、自分が吐き出したモノだ。
ローでさえ汚いと思うソレは、モモからしてみればヘドロも同然だろう。
そんなローの身体の一部が、喉をつたって彼女の体内に入っていった。
その事実が、ローの心を再び熱くさせる。
ボ…ッ。
灯った火が、消えない。
「ゲホ…、ゲホゲホ…。」
粘つく液体は喉に張り付き、えぐみのある嫌な後味を残した。
(マズい…。)
飲み込むようなものではないのだから、当たり前だけど。
モモは舌に残る粘つきを水で流し込もうと思い、のろのろと立ち上がろうとする。
ガシ…。
しかしその前に、モモの肩をいつの間にか椅子から立ち上がっていたローが掴んだ。
「……?」
どうしたんだろう、と首を傾げた。
約束は果たした。
下手くそなりにも、自分はローの欲望を吐かせることに成功したのだ。
だから、もう自分には用はないはず。
「……? 離して…--」
ローの腕を外そうと、手をかけた刹那…。
グン…ッ
モモの視界は反転した。
ドサ……。
気がついたときには、モモの目には自分に覆い被さるローの姿と、家の天井だけが見えていた。
一瞬、少し前に時間が遡ったのかと思った。
ローがモモを抱こうとしていた、あの時間に。
(……え?)