第36章 心に灯る火
「……くッ」
精液を口内に放つつもりはなかったのに、つい耐えきれずに彼女の口で達してしまった。
すでに時は遅いが、ローは慌ててモモを引き離そうと肩を押す。
ドン…。
力の加減を誤って、突き飛ばすような形となってしまった。
「ハァ…、ハァ…。」
久しく味わうことのなかった、自慰ではない絶頂。
その目まぐるしく押し寄せる快感の波に、戦闘ですら乱れることがない呼吸が荒く上がった。
たかだか女にイカされただけで。
それがなんだか悔しくなり、眉を寄せて不機嫌な表情を作った。
強く肩を押された瞬間、モモの頭の中で、夢の終わりを告げる音がした。
ああ、わたしは、なにを勘違いをしていたんだろう。
あの頃に戻れたとでも思った?
愛し愛された、あの頃に。
今、ローに求められているのは自分ではない。
欲望を処理してくれる“誰か”。
そして、自分の役目はこの瞬間、終わったのだ。
不機嫌な表情でこちらを見下ろす彼に、モモは頭の中どころか、身体の内側から冷えていくのを感じていた。
モモの口の中にあるものは、決して自分に欲情した証などではない。
これは異性に欲情しただけの、健康的な生理現象。
ドロドロとした液体の感触が気持ち悪い。
今すぐ吐き出したいけど、彼の一部を吐き捨てたくない。
そんな想いがせめぎ合い、結局モモはたいした考えもなしに、溜まったモノを唾液と共に嚥下させた。
ゴクリ…と喉が鳴る。
その時、ローの心の火が燃えさかるのに、モモは気がつけなかった。