第6章 戦いの中で
「うわぁ! これ、今日釣ったやつ!?」
コクリと自信満々に頷いた。
フィッシュカツにカツオのたたき。
イカのゲソは唐揚げにして、胴体はステーキにした。
「うんめェ!」
当然だ、素材がいいのだから。
チラリとローの様子を伺うと、彼は黙々と料理を口に運んでいるだけだった。
期待してた反応と違う。
でも、仕方ない。
彼はモモを疑っているのだ。
ローは医者であり、研究者でもある。
クラゲの毒性も当然わかってて、たった数時間で回復したことに何も思わないはずない。
短時間でローを回復させれば、こういう状況になることくらいわかってた。
でも、あの時でなくてはならなかった。
『癒しの歌』は自己治癒力と再生力を各段に高める歌だ。
毒素が回って臓器の機能が停止してからでは手遅れになる。
(後悔、してないわ。)
今のモモに、ローを失う以上に怖いことなんてない。
それが例え『自分を仲間として大切にするロー』を失ったとしても。
(あなたに利用されるなら、それでいい。)
でも、自分から打ち明けられる勇気はなかった。
もう少しだけ、仲間でいさせて…。
その夜、お風呂から上がった後、湯冷ましを兼ねてモモは船の外で風を浴びていた。
船にぶつかる波音だけが響く、真っ暗な海は嫌いじゃない。
「…モモ。」
そろそろ来ると思ってた。
呼び声に振り返ると、彼の姿。
「湯上がりにこんなとこいると風邪引くぞ。…って髪もまだ濡れてるじゃねェか。」
水気を含んだキャラメル色の髪に触れた。
モモの髪からはふんわりカモミールの香りがする。
「お前からはいつもカモミールの香りがするな。」
ああ、とモモはポケットから香油の入った小瓶を取り出した。
船で育てたカモミールから作ったものだ。
カモミールには鎮静作用がある。
昔からモモはこの香りを好んでいて、石鹸やポプリによく使った。
「…悪くねェ。」
ローは小瓶の中身ではなく、髪の香りを楽しんだ。
(わたしも、あなたの香り好きよ。)
聞こえないことをいいことに、こっそり告白した。