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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第36章 心に灯る火




6年ぶりに触れた唇は、その甘さを堪能する余裕もないくらい、強引なものだった。

唇の柔らかさに、向けられる情欲の眼差しに、モモが感じたのは喜びやトキメキなどではなく、恐れ。


ねえ、あなたの目に映る わたしはどんな人?

コハクの母親?

孤島の薬剤師?

それとも、都合のいい欲望の捌け口か。


(嫌だ……。)

あなたにとって、そんな存在になりたくない。

多くの海賊は、長い船旅で溜まる欲望を吐き出すために、街で女を買うのだという。

それはシャチもペンギンも例外ではなかったし、きっとローもそうなのだろう。

愛も恋も、関係ない。

ただの身体だけの繋がり。

ローは今、自分にそんな繋がりを求めているのだろうか。

嫌だ、そんなの…。

絶対に、嫌。


「嫌…、触ら…ない…で!」

完全に身体を押さえつけられ、ローに覆い被さられながらも、モモは必死にもがいた。

彼に触れたい気持ちはモモにもある。

でも、ここでローを受け入れたら、自分はローにとって“その場限りの女”となる。

ローには、誰かを愛して欲しいと思った。

でも、自分が誰かの代わりになるのは死んでもごめんだ。


しかし、そんな抵抗虚しく、彼のキスは首筋から胸元へと移動していく。

「……ひッ」

シャツの隙間からローの手が侵入し、モモの脇腹を撫でた。

ぞわぞわと肌が粟立ち、少しの刺激でも反応するくらい、敏感になっていく。

そうしているうちに、ローの手はスルリと背中に回り、下着のホックをパチンと外してしまった。


(う、嘘でしょう…?)

本当に抱く気なのか。

冗談ではなくて…?

信じられない気持ちでローを見つめると、胸元にキスを落としていた彼が顔を上げた。

「……ッ」

そこには、先ほどまでのローは存在しなかった。

いるのは情欲に駆られ、火のついた瞳で見つめ返す男の姿。


本気だ…。



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