第36章 心に灯る火
「ふぅ…。」
ローが身体を離し、薬を取りに行ったことでモモはようやく安堵の息をつけた。
まったく…、いったいなんだったんだろう。
モモが知る彼は、いくら知りたいからって、こんなに強引なことをする人ではなかったのに。
(でも…。)
モモはチラリと傷ついた指先を見る。
(心配症なところは、昔のままだわ。)
こんな傷くらい、放っておいても治るのに。
シャチやペンギンを「船長は過保護だ」と呆れさせたあの頃が懐かしい。
明日で約束の3日目。
明後日になれば、彼らは海へと旅立つ。
幸せな夢も、もうすぐ終わりだ。
だったら、少しでも今の彼を、目に焼き付けておきたい。
そう思ってローに目を向けると、彼はちょうど引き出しを開け、薬を探しているところだった。
傷薬の入った引き出し…の隣の引き出しを探している。
「!!?」
そ、そこは…!!
心臓が飛び出すどころか、止まりそうになった。
ガタ…。
「……?」
モモに言われた通り、戸棚の引き出しを開けてみたけど、傷薬らしいものは見当たらない。
(もっと奥の方か…?)
引き出しの奥に手を差し入れてみると、ガサガサと紙のようなものに触れる。
(……なんだ?)
どこも綺麗に整頓されているのに、無理やり突っ込まれた感じがするソレが気になり、引っ張り出した。
「……これは。」
新聞だ。
なぜこんなものが、ここに?
そして、見出しに目を落としてみると…。
「ぎにゃああァーーッ!!」
「!?」
化け猫のような叫び声に驚いて振り向くと、モモが真っ赤な顔をして、こちらに猛突進してくるところだった。
ドカン…!
しかし、渾身の体当たりは、ローの腕によって難なく受け止められてしまう。
な、なんだ…?
彼女の突拍子もない行動に目を剥くが、当の本人はそれどころじゃないようで。
「返して…ッ。返して、返して~!」
半泣きの状態で、ローが持つ新聞を奪い返そうと手を伸ばす。
不思議に思って、新聞を改めて確認すると、見出しにはこう書かれていた。
『海賊同盟、天夜叉ドフラミンゴを討つ!』