第36章 心に灯る火
「白ひげ海賊団…? お前が…?」
確かめるために復唱すると、モモは壊れた人形のようにコクコクと何度も頷いた。
意外だ…。
イヤ、けど確かに、白ひげ海賊団ならば彼女の薬剤師としての腕は十分発揮できるだろう。
白ひげ海賊団には、多くの医者とナースが乗っていたから。
(だとしたら、連中の誰かがコハクの父親…?)
さすがに白ひげってことはないだろうが、かの海賊団は将来有望な若者も多く集う、大海賊団だ。
(どいつだ…?)
父親は誰か。
それも吐かせようとして、テーブルに手を突き、ハムスターのように縮こまるモモへと迫った。
モモはヒッと息を飲み、手にしていたティーカップをつるりと滑らした。
ガシャーン!
床に落ちたカップは、音を立てて粉々に割れてしまう。
「あ…ッ」
すぐに手を伸ばした彼女に、嫌な予感がする。
「オイ、触るな…。」
「い、痛…ッ」
ああ、遅かった…。
カップを拾おうとしたモモは、ローの予想した通り、指先を傷つけてしまう。
「ハァ…。期待を裏切らねェな、お前は。」
「だ、誰のせいだと思って…ッ」
もとはといえば、ローが脅すからいけないのだ。
「…悪かったよ。」
確かに、少しどうかしていた。
モモの手をとり、カップの破片で傷ついた指先を確認すれば、切り傷から少し血が滲んでいた。
たいした傷ではないが、手先を使う彼女には支障が出るかもしれない。
「傷薬はどこだ?」
「え? えっと…、戸棚の引き出しに。でも、このくらい平気よ。」
「うるせェ、黙ってろ。」
自分のせいで出来た傷だ。
このまま放っとくことなどできない。
ローは薬が入っていると言われた戸棚へと近づいた。