第36章 心に灯る火
(うう、気まずい……。)
初めて知った相棒の不在に、そわそわと落ち着かない。
ああ、昔は2人きりどころか、彼の隣で毎日一緒に眠っていたのに、今となっては話題ひとつ思い浮かばないだなんて。
そうだ、医学の話をしよう。
それならモモはいくらだって話せるし、ローも退屈しないのではないか。
よし…。
「オイ。」
「…! な、なに?」
せっかく話しかけようと意気込んだのに、出鼻を挫かれてしまう。
「お前、昔は海賊だったと言ったな。」
「…ええ。」
「どこの一味にいた。」
「……。」
そんなこと、答えられるはずがない。
どうして急に、そんなことを聞くのだろう。
「…秘密よ。」
だから以前と同じように答えた。
けれどローは、それを許さない。
「ダメだ、言え。」
「……どうして?」
「俺が知りてェからだ。」
ああ、そういう強引なとこ、久しぶりに見た。
「誰にだって、言いたくない過去のひとつやふたつ、あるでしょう。」
「関係ねェな。俺は自分の知りてェことを聞く。」
「……。」
呆れてものが言えない。
言いたくないことを無理やり聞くだなんて、デリカシーってものがないのかしら。
「言いたくねェのなら、言いたくなるようにしてやろうか?」
「……えッ!」
本当に無理やり聞き出す気!?
カダリと椅子から立ち上がるローを見て、一気に冷や汗が吹き出る。
「いや…、あ、あの…。」
こちらに近づいてくるローに、なおさら焦る。
どうやら本気で聞き出すつもりらしい。
(い、言えない…。あなたの船にいました、だなんて言えないよ!)
テンパり始めて、目をぐるぐる回すモモに、懐かしい思い出が語りかけてくる。
『お前、ウチに来ねぇか?』
『白ひげ海賊団に…、俺のところに来いよ。』
それは、今はもういない、大切な友達の声。
しかしモモは感傷に浸るヒマなく、こう答えた。
「白ひげ…! 白ひげ海賊団よ!」