第36章 心に灯る火
しばらくして、モモはお茶を淹れて戻ってきた。
「どうぞ。」
「……ああ。」
「…?」
なんだろう、すごく機嫌が悪そうだ。
眉間のシワが1本多い。
なにも心当たりがないだけに、首を傾げてしまう。
自分の分のカップを置き、ヒスイの分を隣に置く。
そういえば、ヒスイの姿が見当たらない。
「…ヒスイー? お茶が入ったよー。」
声を掛けてみるけど、やってくる気配もなかった。
どうしたんだろう…。
ひとりで外に遊びに行ったとか?
こんなこと、今までなかったのに。
「…あの緑のヤツなら、コハクたちと一緒についてったが。」
「………えッ!?」
ああ、またなの?
心臓が飛び出るほど驚いた…。
「きゅっくしゅん!」
その頃、当のヒスイは大きなクシャミをしていた。
「ヒスイ、風邪か?」
「きゅきゅ。」
ふるふると首を振る。
「ていうかコイツ、なんなの? 見たことない生き物だよな。」
愛嬌のある大きな目をした緑色の生物。
動物…に見えなくもないが、どちらかっていうと宇宙人って言われた方がしっくりくる。
「ヒスイはピクミンっていう植物の妖精だよ。」
「妖精~!?」
そんなバカな。
妖精なんてもの、本当にいるのか?
「きゅきゅ!」
そうだぞ! っと小さな胸を張った。
「まあ、ドレスローザには小人もいたというし、いるんじゃないか、妖精くらい。」
「そうッスね。海は広いから、いろんな不思議があるッス。」
「……。」
そう、海は広い。
あの海平線の向こうには、コハクの知らないことが、山ほどあるんだろう。
(いいんだ、オレは。今日はちょっとだけ、冒険できるんだから。)
「じゃあみんな、出発するよー。」
ベポの掛け声で、黄色い潜水艦がゆっくり動き始める。
「ていうか、ヒスイ。お前、ついて来ちゃって良かったのかよ。」
今さらながら、相棒に尋ねる。
「きゅい!」
「母さんには言ってきたって? …なら、いいけど。」
今頃家で2人きりか…。
ちょっと心配だけど、大丈夫だろう。
ローは母さんのこと、興味ないって言ってたし。
ヒスイは初めて嘘を吐いた。
モモにはなにも言っていない。
でも、これでいいんだ。
彼女には、少しローと2人きりになる時間が必要だと思うから。