第36章 心に灯る火
「ああ、来たわね。それじゃあ、ゴハンにしましょう。」
リビングに行くと、仲間たちがなにやらニヤニヤと笑っているような気がする。
ムカつくヤツらめ。
なにがそんなに可笑しい。
仲間たちの生暖かい笑顔に苛立ち、ガタリと乱暴に椅子へ座った。
その後をコハクがバタバタと追ってくる。
「なぁ、ロー。明日さ、船を動かしてみたいんだけど…。ダメか?」
「あ?」
グイグイと腕を引っ張ってくるコハクに眉を寄せた。
「あー、船長。コハクが動く船に乗ってみたいって言うんだけど…、ダメですかね?」
「ほら、おれもしばらく寝てたし、ちょっと海に潜ってみたいなぁ。」
シャチもベポも、コハクの肩を持つようにお願いしてくる。
たった1日で、彼らはずいぶん打ち解けたらしい。
海賊船は神聖なもの。
本来なら、子供に見せるために動かしたりはしないが…。
「ダメよ、コハク。みんなを困らせては。」
モモが困ったように窘める。
「ごめんなさい、ロー。気にしなくていいわ。」
ローたちの迷惑になってはいけないだろうと彼女は気遣う。
でも本当は、息子の願いを叶えてやりたいだろう。
「…別に構わねェ。お前らの好きにしろ。」
気づけば、そんな言葉が口から出ていた。
「本当…!?」
コハクが興奮してはしゃぐ。
「じゃ、じゃあさ、船長。ちょっと遠くまで行ってもいいか? コハクのヤツ、島から出たことないって言うし、町とかは無理でも、隣の島くらいには連れてってやりたいんだけど。」
シルフガーデンから少し離れたところに、島というには少し小さい孤島がある。
なにもない島だけど、少年にとっては忘れられない冒険になるだろう。
あそこだったら、半日ほどで帰ってこられるはず。
「ああ、行ってこい。」
「……! 本当に? いいのか? ああ、ありがとう、ロー!」
興奮に堪えきれず、その場でピョンピョンと跳ねた。
「ロー…、本当に…いいの?」
コハクの願いが叶って嬉しいと思いつつも、モモは躊躇う。
「コイツには借りがある。そのくらい、叶えてやるのが当然だろう。」
コハクがあの時、モモのもとへ案内してくれたから、今の自分たちがあるのだ。
これくらい、させてくれ。