第36章 心に灯る火
キャプテーン。
遠くでベポが呼ぶ声がする。
(なんだ。)
そう応えたかったのに、声がでない。
心地よい微睡みが、ローの覚醒を邪魔するのだ。
こんなことは、いつ以来だろう。
ドフラミンゴを倒し、心身ともに疲れ果て、キュロスの家で倒れるように眠ったあの時以来か。
けれどあの時だって、こんなに安心した気持ちにはなれはかったのに。
「キャプテン、ねえ、起きてよ。」
「……!」
ゆさゆさと揺さぶられ、ローはついに覚醒する。
「……?」
重たい瞼をこじ開けると、ベポがにっこりと笑っていた。
なんだ、この状況は…。
俺は今、眠っていたのか?
いつから…。
途切れる前の、最後の記憶を辿ろうとする。
「モモがもうすぐゴハンできるから、キャプテンも来てってさ。」
モモ…。
そうだ、モモだ。
彼女が囁くような声で唄った子守り歌。
あれを聞いていたら、ものすごく眠くなってしまったのだ。
(子守り歌で眠らされた…?)
子供じゃあるまいし、そんなことが起こるなんてあり得ない。
けれど、ここでこうして眠っているのが、なによりの証拠だった。
それを意識した途端、とてつもなく恥ずかしくなる。
「……クソッ。」
照れ隠しに舌打ちをひとつ吐くと、ムクリと起き上がった。
「もう、寝起きが悪いんだから。夜ゴハンはシチューだってさ。」
すっかり元気を取り戻したベポが、嬉しそうに言う。
そんなことよりも、彼女の前で無防備に眠りこけたことの方が問題だ。
こんな事実、恥ずかしくて みんなのところへ行けやしない。
「おい、ロー。まだ起きてないのか? 早く来いよ、みんな待ってんだから。」
なかなか起きてこないローに焦れて、コハクまでもが呼びにくる。
「……今、行く。」
仕方なく、観念したように立ち上がったのだった。